おがさわら丸の中には目に見えない所でいろんな人が働いています。乗船してまず始めに出会うのが、乗船券をもぎるヒト、座席の番号札を渡すヒト。事務服を着た人もいれば、金筋の付いたジャケットを着た人もいます。案内所、売店に行けば事務員さんが応対してくれます。
しかし、船を動かす航海士、エンジンを保守する機関部の皆さんは普段あまり船内で見かけません。彼らと接する事が出来るのは、操舵室、エンジン見学のときだけでしょう。

また、父島に着いてから乗組員は何をしているのでしょうか?お休みではありません、ほとんどの乗組員は作業をしています。

普段、陸上(オカ)の生活をしているとなかなか分からない船のおしごとを、おがさわら丸を例に書いてみました。
ただし、一部の役職は、現在のおが丸には無いものもあります。



まず、船の基本組織から・・

甲板部・・・操船、貨物の取り扱い、船体の補修、保全等。

機関部・・・エンジンの統括管理。

無線部・・・通信業務。

事務部・・・接客、売店、船内衛生管理。

レストラン部・・・レストラン運営。

このような構成で、おがさわら丸のなかには1航海30人前後の乗組員が乗っています。他にも休暇で下船中の乗組員もいます。


船長、甲板部(デッキ)
船長といえば双眼鏡片手に舵を取る姿ですが、大きな船の船長は舵ハンドルを直接握りません。


しかも、船長が直接操船指揮に携わるのは、おが丸を例にとると、入出港の時、東京湾の中の様な多様な船が錯綜するシビアな海域だけで、その他の航海中は、自動操舵と共に航海士が当直、いわゆる当番が監視、運航に携わります。

一般的に船長は入出港、複雑な航路以外は部屋に在室し外に出ないため、昔のよその船では口の悪い人が”何にもせんちょう”等と揶揄するむきもあったみたいですが、その間は船長は、自室にて多様な書類業務等をこなすと聞いてます。 その間は、およそ心休まる時間ばかりでは無いでしょう。

しかし、一番の責任者であるのは何も運転だけでなく、出港の最終決定、気象、船内の労務安全、衛生管理における法令の遵守や、非常時つまり事故、沈没時の対応、また、船内におけるならず者の乗組員、船客の身体拘束権もあるといいます。とても責任重大です。

船長に続く甲板部の役職が”航海士”(オフィサー)です。

航海士は、6級から1級まである”海技士免状”という免許がなにより必要です。

モーターボートなどを操船する際に必要なのは、”四〜一級小型船舶免許”レジャー用ボート、離島間の小型連絡船等はこの免許で十分です。

海技士は、”プロ専用中型〜大型〜超大型船舶免許”といったとこでしょうか。

船の大きさ、航行する海域に応じた級の免許を持ち、なおかつ会社から辞令があった者がなることが出来ます。

会社でいうと、部長、課長職みたいなものでしょうか。 年齢は若くても、偉いのです!

ただ免許があるから、長く勤めているからといってなることは出来ないようですが、 若くても専門の海技高校、大学を出た20代の航海士も沢山活躍しています。

航海士は偉い順に↓
一等航海士(チーフオフィサー、口語読みチョッサー)
二等航海士(セコンドオフィサー、セコンドッサー)
三等航海士(サードオフィサー、サードッサー)

と続き、それぞれ法的に要求される免状の級数が違います。

船長が休みの時には、一等航海士が船長になり、それぞれひとつ上の職に代理役を任される場合が多いようです。

海技士資格を持つ航海士は、航海中は三交代(前述したゼロヨン、ヨンパー、パーゼロシフト)で後述する甲板員とペアになりブリッヂの当直に入ります。

基本的にブリッヂに椅子はありません。眠気防止の為ですな。

また、航海士は、役職ごとに責任分担があり、上水の管理、保管薬品、貨物の重さ、非常用脱出用具などの管理も任されています。

航海士の部下の、甲板部の船員を”甲板部員”といい、航海士の指示のもとに荷役や操船、船体維持作業を行います。

甲板部員には、海技士免許は要求されません。

航海士を目指す若者が甲板部に入ったら、まず甲板部員から始め、経験を積む事となります。

海技士免状を持たず、海技士資格を取り航海士を目標とする人は、級によって指定された2年以上の乗船年数を満たすと受験資格が与えられます。

父島停泊中は、昼間は船体維持作業で溶接やペンキ塗り作業等を実施する他、夜間も甲板部員が舷門、つまり入口の出入り人警戒及び船内を巡回し保守にあたっておられます。


商船学校を出て、若くして航海士になる息子位の年齢の若者と、定年近い親父位の年齢の甲板員がペアになる事も珍しいことではないようですが、目指すところ、落ち着くところは人それぞれの様です。

船内では、船内放送で呼び出しをする時は、XXチョッサー!と役職を付けて呼び出します。


チッキ、貨物コンテナ、郵便物の取り扱い、着岸の際にゴムレットをブン回しロープを投げるのも甲板部の仕事です。また、船体の維持、管理に努めるのも甲板部であり、さび落とし(ハンマで叩き落す事からカンカンと呼ぶ)、ペンキ塗り(ペンヌリと呼びます)をする姿を停泊中見る事が出来ます。


機関部(エンジン)
船で一番偉いのは船長ですが、次に偉い、というよりツートップの存在が機関長です。

機関長をはじめ、機関員は客室はおろか係留作業スペース等にも姿を現さず、見かける機会もありません。
文字通り縁の下で船の運航に必要な機械類の維持点検にあたっておられます。

おが丸の場合、一航海あたり7人の機関部員がカベの向こう側、床下で活躍されています。

ここで役職紹介。

機関長(チーフエンジニア・口語よみチーフェンジャー)機関部の総責任者
一等機関士(ファーストエンジニア・ファッセンジャー)メインエンジン、プロペラ責任者
二等機関士(セカンドエンジニア・セカンドエンジャー)発電機などの責任者
三等機関士(サードエンジニア・サーデンジャー)ボイラー、空調、冷蔵庫などの責任者


航海士と同じく、”士”が付く役職には海技士免状が必要です。

機関士の助手をするのが操機手と呼ばれる機関員で、航海中は機関士と操機手がペアになり当直にあたり、停泊中は操機手が当直にあたります。


大型船のエンジンで必要なのは何もプロペラに繋がるエンジンだけでなく、船内の電気をまかなう発電エンジンがキモです。

電気が通わないと、船内は窓があるところは少ないので真っ暗、まさに漆黒の闇。空調も止まりますが、窓は開きません。

舵を切る油圧も動かなくなり何よりメインエンジンが動かなくなります。

もし、そうなったら・・あまり想像したくないですね。

専門知識がなくても鍵をひねれば掛かる車やモーターボートのエンジンと違い、大型船のエンジンは様々な補助装置があって始めて動くシロモノです。

私も専門家では無いので、メインエンジンの掛け方を専門書で見知りました↓
@燃料を電気ないし蒸気で加熱する。
A潤滑油を温めポンプで循環させる。
B冷却水ポンプを稼動させる。
C燃料ポンプを稼動させる
Dメインエンジンを始動させる為の圧縮空気をタンクに充填する。
Eメインエンジンを補助モーターの力でゆっくり数回空転させ点検する。
Fシリンダに圧縮空気を予め決まった順番に吹き込むとエンジンが回転を始め、弾みが付いた所に燃料を吹込みエンジンが始動する。


あ〜大変。プロが複数名いないとエンジン始動もできません。

船内には、エンジンのほかに、電気機器類、チャンバーと呼ばれる大きな冷蔵庫、空調、給湯器をはじめとするボイラー、モーター、ポンプが無数にあり、機関員が24時間維持管理に当たっています。

船の中は一歩裏に入るとポンプだらけ。エンジン補助関係だけでも多数ですが更に、上下水、消火設備、浸水時における排水ポンプなどなど。

機関室に入った印象としては、”エンジンからプロペラ装置”というより、ひとつの工場、プラントの様です。

船内でフガフガと呑気に過ごせるのも、エンジニアさんたちのお陰ですね。

詳しくは”おがさわら丸のエンジン”のページをどうぞ。


通信部(ラジオ)
・通信長(現在は航海士が兼任する場合が多い)
文字どおり通信業務を担当します。近年の船はGPS、GMDSS等の衛星通信機器の普及に伴い、昔の様に通信専門の人を置かず、航海士等が兼任することもあります。


事務部
・事務長(パーサー)・・・船内事務、会計のの責任者です。各手当てなども担当します。
・司厨長・・・船内衛生、備品の管理の責任者です。
・事務員・・・パーサーの補佐を行う
・司厨員
・司厨手
船内で接客を担当するのが事務部です。売店、自動販売機なども管理します。
また、お客様が降りた後、船室、指定席などの清掃をパートさんと共に行うのも事務部の仕事です。

乗組員の三度の賄いを作るのも料理専門の司厨員の担当となります。
乗下船の際、ダブルのジャケットに制帽をかぶっているのは、パーサーと司厨長です。


レストラン部
・支配人(マネージャー)
・料理長(チーフコック)
・調理員(コック)
・接客担当(ホール)


だいたいの客船は主にこの5部署で構成されています。

■海技士の級別について■

6級から始まる海技士資格は1級まであり、1級に近づくに従い試験は難しくなります。

様々な海域を航行する船舶には、所定の人数の海技士が乗り込む様決まっており、ここでは航海士の場合を説明します。

まず、基準とされるのが船の大きさ。

よく耳にする船の大きさを表す数字”××トン”です。

船の”トン”は、1000kgとは違い、船の大きさや容積などを計測して導かれた数値です。
トンの説明は大変ややこしいので割愛します。

海技士資格上トン数で分けられる区分↓(身近な船)
●5000トン以上(おが丸6700トン、クルーズ船ン万トン、大型タンカーは20万トン以上)
●5000トン以下(かめりあ丸、隠岐汽船くにが2375トン)
●1000トン以下
●500トン以下(ははじま丸490トン、共勝丸317トン)
●200トン以下

そのトン数と、その船が主に航行する海域によって導き出されます。

海域の種別を簡単に書いてみると(実際は緯度経度がちゃんと決まってます。)
■遠洋・・世界中どこでも
■近海・・日本を中心に北はロシア辺り、南はニューギニア、ソロモン諸島辺り、西はタイ辺りまで、東はようわからんがアメリカ領までは不可。
■沿海・・国内の沿岸より37km以内
■平水・・湖、川、港内、湾内など

定期船おがさわら丸を例にとると、
トン数”6700トン”
資格上では船の大きさ、エンジンの出力共に最大の枠に入ります。

海域は”近海”にあたります。

一覧表の条件に当てはめると、

  船長 ・・1級海技士
一等航海士・・3級海技士
二等航海士・・4級海技士
三等航海士・・5級海技士資格が最低でも要求されます。

もしおが丸が世界を回る船になったら?
  船長 ・・1級海技士
一等航海士・・2級海技士
二等航海士・・3級海技士
三等航海士・・3級海技士が必要となります。
(実際に遠洋に出るには厳しい構造、設備などの仕様が問われる様なので、あくまでも海技士資格だけのハナシ)

ですが、これはあくまでも最低条件。

乗組員は切磋琢磨し上位免許を取得するべく日夜勉強に励み、また、船会社としても、ひとつ二つ上の免許を持っていないと航海士として任命しない様です。


同じように、機関海技士にも、取り扱うエンジンの大きさによって区分があります。

区分上一番大きいのが、6000キロワット以上、その次が6000以下、3000以下、1500以下、750以下と続きます。

おが丸はメインエンジンが二つ、あわせて20000kw弱あります。

キロワット:kwとは、エンジンのチカラ・仕事量をあらわす数値で、過去には××馬力(ps)と表されて来た数値です。
1馬力×0.735がkwになります。



<よくある質問>

◎船の勤務体系は?

おがさわら丸の場合、大体の乗組員は、例えば3便乗って2便降りるとか、4便乗って1便降りるという様になっていて、乗船中は、次の休暇までほぼ休みなくずっと勤務のようです。

職長が休暇の場合でも、予め指名された次席職長が乗るため、業務に支障はありません。
乗船中のシフトも通常の陸の仕事と違い、24時間体制のため、昼勤の人意外に当直に入る人が必要になってきます。船の当直は主に午前、午後の4時間づつで構成されています。

・ゼロヨン勤務(0:00〜4:00、12:00〜16:00)
・ヨンパー勤務(4:00〜8:00、16:00〜20:00)
・パーゼロ勤務(8:00〜12:00、20:00〜24:00)


このようなシフトが各当直に割り当てられています。勤務明けで昼寝ている人もいるため、乗組員区画は騒がないのが鉄則です。また、当直に入る人用に夜食を提供する事が決められていて、おにぎり、サンドイッチ、菓子パン、めん類等が司厨員の手によって用意されます。

◎船の中に乗組員の部屋があるのですか?

あります。レストランの下に機関部、奥には事務部、上には甲板部の部屋があります。基本的に2人部屋で、職長クラス以上は1人部屋です。船機長の部屋は当然広く出来ています。

◎船員も酔うのですか?

航海を重ねている分、皆さん船酔いにはかなり強い様です。しかし、船酔いは個人の体質によるものなので、頭痛、食欲不振を覚える人もいるようです。
 
◎乗組員は父島の人ですか?

島生まれの人は1人もいない様です。全員が内地に住所があり、結構遠くから東京まで来て乗船されている方もいらっしゃいます。

◎乗組員は島で何しているのですか?遊んでいるのですか?

甲板部は船体整備、ペンぬり等、機関部は整備、事務部は客室整備等おおよその乗組員は仕事をしています。休暇は内地です。




               
以上の内容は、おがさわら丸を例に進めさせて頂きましたが、正式な位置づけではないこのサイトでは過去の情報などから現状との相違点がまま有ると思われます。参考程度にご理解下さいませ。

また、海技士資格解説における間違いが有りましたら、ご指摘をお願いいたします。

                         

                             
船のお仕事